>>>本文より抜粋
壮絶な突きもある3時間立切試合
この大会もあっという間に20回という節目をむかえるまでの伝統を背負う大会に成長した。
思えば、この大会を通し、いくつものドラマが生まれ、また、剣士として立派に成長していった者も数多い。
私は、この大会が近づくたびに、過去の思い出が頭を駆け巡り、そして、新たな感動と出会える期待感に興奮するのである。
東海林一義錬士六段。
湯沢市雄勝郡を代表して基立選手となった。
持ち前の瞬発力に加え、人並み外れたパワーを発揮する。
またその勝負感の良さにも定評がある。開始早々の応じ返し胴を決め、以後、終始安定した力を発揮した。
32人目の挑戦者、阿部桂錬士六段に突き技の洗礼を受け、さすがに苦しそうな様子ではあったが、
4名の基立選手の中では1番無難に立ち切ったのではないだろうか。
永井隆康錬士六段(秋田市)。
同じ刑務官の仲間が多数応援に駆けつけ、必死に声援を送っていた。
一見、華奢な感じに見えるが、1つひとつの技の切れ味は見応えがある。
開始から順調な試合運びを見せ、このままのペースで最後まで、と思ったら、10人目を過ぎたあたりから足さばきが狂ってきた。
体当たりされて転倒した際には、立ち上がり、構えるまで少々の時間を要した様子だった。
それでも「気」によって、立派に33人の挑戦を受け切った。
熊谷正雄教士七段(花巻市)。
4名の基立選手の中では最年長(46歳)である。
序盤ペースをつかめず苦しんでいたようだが、そこは、さすがにベテラン。
時間が進むにつれ、試合の波を自分に引き寄せ、挑戦者に相対していた。
地元岩手県で教えているスポーツ少年団の教え子たちが作ってくれた「熊谷先生、がんばれ!」の垂れ幕には感動した。
川上敦錬士六段(福島県)。
挑戦者の1人目から33人目まで、一貫して自分のペースを守りきり立ち切った1人ではないだろうか。
それなりに途中苦しさはあったはず。しかし、33人の挑戦者に対し、焦らず、慌てずを守り通していたように、私の目には映った。
今回の大会の挑戦者の1人に、東海林一義選手の弟、東海林聡五段が挑戦者として参加している。
基立選手の兄に、勇猛果敢に打ち挑んでいく弟として感想を聞いてみた。
「情はない。1挑戦者として、正々堂々と戦うだけ。
兄には、この試練を乗り越え、また新たな道を切り開いてもらいたい。とくかく最後までがんばってほしい。」
兄一義選手を見つめ、弟はこう語ってくれた。
第20回記念3時間立切試合終了の太鼓の音が会場全体に響き渡った。
4名の基立選手への観客・役員総立ちの惜しみない拍手。
礼を終え、正座し、自らの面を取った彼らの顔は、疲れや苦しみの表情ではない、確実に何かを為し終えた満足げな表情だった。
東海林選手の弟、聡選手が兄に語った言葉「1つの試練を乗り越え、また新たな道を切り開いていってほしい。」
今、まさにこの4名の基立選手にはこの言葉を贈りたい・・・
そして言い尽くせない感動をありがとう。
【たのもうや@武道具店】 seiko write